隣に座っていいですか?

「彼女は病気と闘ってました」

笑顔のまま
田辺さんは話を続けた。

「桜の為に病気に勝とうと頑張りました。意識が途切れるのが嫌で強い薬を拒否して痛みをこらえてましたが、病魔に侵され薬を入れて……最後の方はずっと目を閉じてました」

そして
自分も思い出すように
目を閉じる。

「寝たきりの彼女の髪を撫で頬を撫で、意識が戻らぬ事に理不尽な怒りをぶつけてましたが、いざ亡くなると……どんな形でもいい、意識が無くてもいいから生きていて欲しかったと思うのが不思議です」

愛していたんだ。

「すいません。変な話をして、気分が重くなりましたね」

明るい声を出し
私に謝るので私も謝る。

「いえそんな事はないのですが、ごめんなさい。私は奥さんが亡くなったのを知らなくて、田辺さんにとっても失礼な事を言ってしまって」

「はい?」

「この間、ここに来た時。失礼な事を言って……田辺さんを傷付けてしまって、ずっと気にしていて謝ろうって思ってました」

「何か言われましたっけ?」

本気で悩んでる。

「私、田辺さんが奥さんに逃げられたと思っていて、ひどい事を言ってたんです。ごめんなさい」

「僕が?奥さんに逃げられたと?」

「はい。ごめんなさい。でも近所のみんなも思ってました」

「えっ?それはショックです」
マジか?

「田辺さん。はっきり言えば近所じゃへタレキャラですよ」

素直に言うと

「ええっ?」と、本気で驚く。

自覚なかった?
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