隣に座っていいですか?
「『優雅で余裕ある翻訳家』じゃなくて?」

残り物をラップに包み
しっかり持って帰る奴の
どこに余裕がある。

「間違いなくへタレ方向です」
はっきり告げると
肩を落とす。

自覚がないって怖い。

「でも桜ちゃんに対する愛情は、最大に感じてますから」

「そこが一番大切ですよね」
自ら大きな声で言い
私の『へタレ』発言を頭から追い出そうとしているようだ。

「僕も桜も幸せです。ここに引っ越してきて皆さんに優しくしてもらってます」
お世辞でもなく
心からの声
そんな誠実な声を出し
私に微笑む。

「みんな桜ちゃんが可愛いんです」
優しい瞳になぜか心拍数が上がり、私は紅茶を一気飲みして席を立つ。

「もう帰ります?」

「はい」
顔を見ないで帰りたい。

なんだか……こう

違う。
いつもと違う感じ。

きっと、いつも間に入ってくれる桜ちゃんが居ないせいだ。
気持ちがフワフワして
逃げ出したい気持ちになってる私。

「郁美さん」

「はい」

「話を聞いてくれてありがとう」

礼を言われ
私は「お邪魔しました」と言い、足早に隣から我が家に逃げる。

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