隣に座っていいですか?

桜ちゃんは笑顔でクマを抱っこして、てるてる坊主を作っていた。

「ありがとうございます」
目を輝かせ
私を台所に連れて行き
明日の遠足のお弁当の材料を見せる。

「もうね、材料は完璧に揃えたんですよ」

元気じゃない?
とっても元気じゃない?田辺さん。

さっきまで『足が折れた』って騒いで涙目になってる人とは、違うんじゃない?

「これなんですけど」

一枚の紙を差し出す。

某お料理サイトのキャラ弁プリントアウト。これは……高度だ。

「作り方書いてあるので楽勝と思っていたら、何となく自信が無くなってきて」
あははと笑う。

そこで笑うか?

「お願いします。手伝って下さい」

背の高い田辺さんは
上からしっかり私の肩を掴み
怖い顔でお願いする。

逃げられない。

「はい」って返事すると

「やったー」って桜ちゃんみたいに喜びジャンプ。

おい
足はどうした?
足の骨折はどうしたんだ?

しっかり
罠にハマった感じ。

「桜がこのキャラが好きで」
そう言いながら私に急接近

いや
ちょっとそんなに顔を近づけないで、ドキドキするから。

「いつも幼稚園は給食だけど、遠足の時はお弁当で……すいません。僕も見栄を張りたくなって」

静かに言われて
ふたりで桜ちゃんを見る。
てるてる坊主を完成させ、私達に嬉しそうに見せてくれた。


少し
距離を置こうと思ってたのに


うまくいかない。

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