隣に座っていいですか?
朝から一通り説明すると
達也は怖い顔でうなずきながら話を聞いてくれた。

「わかった」
わかってくれたか
ホッとしていると

「次に行く時は俺も行く」
威圧したまま上から発言。

「行く……って?」

「もうひとりで隣に行くな」
命令形にカチンとくる。

「それって何?」

「言葉そのまま。独身の女がひとりで行く場所じゃない」

「別に変な事してませんけど。逆にそんな風に受け止める方が」

「心配なんだって」

「何が?」

「言わせる気か?」

腕を強く捕まれる。

痛いのは
腕か心か?

黙っていると

「亡くなった奥さんには、絶対勝てないんだぞ」

声のトーンが落ち
悲しい顔になっている。

「変な事言わないで」
急に恥ずかしくなり
捕まれた腕から乱暴に離れ、背の高い達也をきつく睨み上げる。

小学校の頃は
私の方が大きくて
私の方が力が強かったのに。

「お前が好きになっても、絶対相手にされない」

「そんなんじゃない」

「亡くなった人の想い出は、いい想い出しか出てこない」

だから違う……って言葉が出ない。

「好きになっても傷付いて終わる。お前の泣いた顔は見たくない」

朝から泣きたくなる。

「深入りする前に止めろ。そして早く俺の物になれ」
達也は言い切り
背中を向けて

行ってしまった。
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