隣に座っていいですか?


達也は約束を守る男だ
しなくていい約束も守る。

政治家にさせようか。

とある土曜日
半袖のTシャツを着た桜ちゃんを見て、夏を感じていると

「あ、クリーニングやさんのお兄さん」
店の前で桜ちゃんが言い

振り向くと
達也が立っていた。

「何やってるの?」
楽しそうに達也は声をかけ
桜ちゃんに手を伸ばし高く抱きかかえる。

桜ちゃんは大きな声を上げ
嬉しそうに達也に抱かれたまま身体を揺らし、達也に怒られる。

親子みたい。
田辺さんが見たら嫉妬するかな。

「お父さんぐらい高い」
人懐っこい桜ちゃん
もう達也ともお友達。

「クリーニングやさんのお兄さん。きょうはおやすみですか?」

「そうだよ。桜ちゃんにプレゼントがあるから今日はお休みですよ」

どんな理屈で休み?
一瞬冷たい目で見ていると『待っててね』と桜ちゃんをゆっくり降ろし、走って15秒の距離にある自宅へ戻り、あっという間にまた現れる。

その手には

「花火だ!」
桜ちゃんは達也の手にあるお子様花火セットを見て、歓声を上げていた。

「今夜やるか?」

「やりたい」
バタバタ手と足が動く。
本当に子供ってこんな動きするんだなぁ、やっぱり桜ちゃんには乾電池が入ってそうだ。

「いくちゃんもやろう」

え?私?

すると

「うん。今夜お兄さんと郁ちゃんが一緒に、桜ちゃんの家に行ってみんなで花火をしよう」

達也が言う。

達也が……行くの?

飛び跳ねる桜ちゃんの姿を見ながら、達也の目の奥は冷静であり何かを決意しているような気がして

なぜか
私は不安になる。

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