隣に座っていいですか？

「あ、郁美さんと達也さんは……」
遠慮がちに田辺さんが言うと

「俺としては、そろそろ結婚です」

何ですって？

「変な話しないでよ」

焦る。
お酒に弱いくせに飲んだのが悪かったのか
上手く口が回らない
説明も上手くできない。

達也は私を無視し、田辺さんの顔をしっかり見て言葉を続ける。

「だからすいません。郁美はここの家にはひとりでは来ないようにさせます」

田辺さんの表情は変わらない。
桜の樹の下
穏やかな顔は変わらない。

「何かあるって事はないでしょうが、世間体を考えるといくらお子さんがいても独り身の男性の所にはあまり行かせたくないのが俺の想いです」

「達也！」

「そうですか、いやすいません。つい僕が甘えてました」

三者三様。

達也は正論かもしれない
でも違う
何か違う。

苛立ちを見せていると

「いくちゃんとお兄さんはけっこんするの？」
小さな声がポツリと聞こえた。

桜ちゃん。

「そうだよ」
達也が笑顔を見せるけど
桜ちゃんの顔は曇っていた。

暗がりだから
はっきりしないけど
手に持っていたお菓子をテーブルに返し、寂しそうな顔で、本当に聞き取れないくらい小さな声を出す。

「そんなの……いやだもん」

桜ちゃん。