今宵、きみを想う
 ひたすら、ただ見つめた。


 
 貴方の薬指あたりを、ただ―――


 その行為に意味はあるのか分からないけれど、ただそこを見つめたまま目が逸らせなかった。




 幾ばくか時間が流れたころ、カタンと音を立てて貴方は立ち上がった。



 「あ……」



 返事も何もしてないのに、立ち上がってしまった貴方に私は慌てた。


 だって、どうして立ってしまうの?


 待って、お願い。


 ほんの少しでいいから、待って―――


 そう思うのに、その言葉すら出ない私に



 「ホラ、だから言っただろ? お前には、俺を選べない。終わろう、俺たち」



 ポン



 私の肩を軽く叩いて、貴方はそのまま去って行った。



 ―――私はまた、静かにその場に座った。



 もう、何も考えたくはなかった。


 *
< 17 / 96 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop