今宵、きみを想う
 ――――――


 「ちょっ……手、離してよ」

 「やだよ、酔っ払い」

 「酔ってないし。ちゃんと歩けるから」

 「いいから。黙って繋がれてろよ」



 まだ戸惑ったままの私を余所に、昔と全く違うその強引加減で歩く彼に私はまだついていけない。




 こんな人だった―――?




 戸惑いを隠せなくて、でも繋がれた手を振りほどくことも出来なくて。



 ただ、温かいその手は好きだったって思い出す。



 いつも私を受け止める温かな手。



 高校を卒業してから、触れることも、思い出すこともなかった手の感触。



 それを直に感じてドキリとする。



 高校最後の文化祭。



 後夜祭のダンスでペアになった。



 彼女の目が気になって、私はドキドキしながら彼の手を握ったなって。



 私が悪いんじゃないのに、妙な罪悪感に苛まれたな……って。



 だから彼の手に触れたのは、それが最後だった気がする。



 そんなことをふと思い出しながら、軽くだけど少しだけ繋がれた手を握りしめ返した。
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