今宵、きみを想う
 ずんずん歩いて、家の近くの公園に辿り着く。


 木に覆われたそこは目隠しが多くて、カップルのデートスポットだと密かに好評だ。


 少し広いその公園を、ひたすら無言で手を繋いで歩く。



 言葉はない。



 ただ、砂地の上をピンヒールで歩くのに疲れた―――って思った頃。



 「座ったら」



 ベンチの前だった。



 横にある自販機に彼がお金を投入する。



 「ミルクティー?」

 

 って聞くから、静かに頷いたらゴトンって落ちる音がした。



 私のを買ってから自分のを買うつもりか、またお金の落ちる音が響く。



 そうしたら



 「あ、10円足んねー」



 って言うから、笑って10円を差し出すと



 「高いよ、私の10円」

 「ばーか、黙って貸せよ」



 私の手からあっさりと10円は奪われた。



 それを見て私は一人、懐かしのやり取りを思いだしてクスリと笑う。



 キミを好きになった始まりだったな、なんて。



 10円が。



 私の恋を運んできたって、そんなことを思いだした。
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