今宵、きみを想う
 ミルクティーを私に差し出して、彼は缶コーヒーのプルタブを引く。


 どちらも何も言葉を発さない。


 ちびちびと飲み続けたけれど、だんだんその沈黙が息苦しく感じて



 「まだ寒いんだから。もうちょっと温かいとこ連れて行ってくれたらいいのに」


 
 半分本気、でも半分嘘の入り混じる言葉を漏らした。


 こんな軽口、彼に叩くのも久しぶりだ。



 「じゃ、ホテルでも行く?」

 「な……っ!?」



 冗談とも本気ともとれそうな笑みを浮かべられて、私は顔を赤らめた。



 ―――こんな人だった? 


 彼との初めてのこの距離感に戸惑う。


 誤魔化す様に俯いてミルクティーを一口飲むと、口中に甘さが広がって少しだけ落ち着きを取り戻した。


 それなのに……



 「そんな安っぽい女にするつもりないから」



 ニコっと笑って、飄々とした態度で彼はコーヒーを飲んだ。


 キザすぎる台詞。


 だけど……私を大事にしてくれているのを感じたその言葉が、単純に嬉しく思った。


 チラリと横目に彼を見ると、缶を持つ指先が目に入る。


 

 ―――初めて会った時には、そんなに大きくなかったのに。



 いつの間にこんなに男になったんだろうか?



 線の細いイメージだったのに、その指先に男っぽい骨っぽさを感じてドキドキした。
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