今宵、きみを想う
 「え?」

 「いや……うん。なんか、思い出してさっき。元気かな? って思ってたとこ。そしたら現れるからさ、ビックリした」

 「うっそだー」

 「ほんとだって」


 昔と同じように二人の目が合わさって、一拍おいて一緒に笑った。


 この空気が好きだった。


 彼との間に流れる、この柔らかな空気が。


 「どう、元気?」


 一頻り笑って、彼が一息ついて私に尋ねた。


 「うん……まぁ……」


 フラれて傷ついてたところ―――なんて言えなくて、言葉を濁す。


 それが、貴方に会いたくなった原因だなんて、勿論口が裂けても言えない。


 だって彼はもう……


 「そっか。俺は……」
 
 「結婚、したんでしょ?」

 「あぁ」


 今までに見たこともない、一番優しい笑顔を私に向けてくれた。
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