今宵、きみを想う
 切なさを一人胸に募らせて、私はきゅっと手を握りしめながら



 「そっか……おめでとう」



 なんとか笑顔を浮かべて、彼におめでとうを告げた。



 「ありがとう」



 私の言葉に、ふわりと温かな表情を向けられた。



 惨敗だった。


 完全に。



 その後の詳しい話は、私の耳をほとんど通り過ぎてしまったけれど。


 ただ、あの彼女が今の奥さんじゃないことや。


 会社の後輩だ、というような言葉だけが聞こえてきた。






 どうせなら彼女とそのまま結婚してくれたら良かったのに。





 なんてのは私のつまらない意見だけど。


 結局のところ、私が彼の中には微塵も入り込んでいなかったことに、ショックを隠せなかった。



 分かってる。



 自分だって、25のこの年まで、彼を想ってきたわけじゃない。



 その癖、久しぶりに会うからって妙に期待を募らせていただけだ。


 ほんのわずかの間の、小さな夢。



 だから―――



 ばっさりと敗れて、その方がずっと良かったんだ。
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