今宵、きみを想う
 「ちょっと、痛いってば」

 「わざと痛くしてるに決まってんだろ?」



 そう言って、上目遣いに私を見る。


 ニッと笑んで見つめるその表情がなぜか妖艶で。


 私は不覚にもドキリとした。



 「どうにも俺を男に見ないお前にムカついて、彼女作った。なのにお前、それでもアイツばっか」

 「だって! そんなこと一言も!!」

 「言うかよっ、本人に。告って、振られたら俺……お前の友達の立場すらなくなるだろ?」



 切なそうに瞳を揺らす彼。


 今までの強い目が途端にナリを潜めて、それが私にも切なさを与える。



 ―――友達でもなくなったら、嫌だ。



 それは私が3年間思ったこと。



 まさかその気持ちを、私が彼に与えているだなんて、露とも思わなかった。



 それに気が付いて、さっきの喜び反面、罪悪感が芽生えてズキリと胸が痛んだ。



 「……ごめん、ね」

 「謝ってんじゃねーよ」


 

 伸びてきた右手が私の頬を摘まんで、引っ張って離した。
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