今宵、きみを想う
 *


 「ただいま」


 誰もいないのに、そう言いながら靴を脱いだ。


 少し冷気の漂う廊下を歩き、明かりの灯るリビングに足を踏み入れた。


 テレビも音楽も、何の音もしない、誰の気配もしないその空間に首を傾げる。

 
 ―――?


 オカシイな、と思ってぐるりと見回して目に入ったのは彼女。


 
 「寝てろって言ったのに」



 待っててくれたんだろう。


 ソファーで力尽きたように背もたれに体重を乗せて寝ている。


 心地よさそうなその表情に思わず表情も緩む。


 やっぱり俺、きみが一番だ。


 なんて。


 今日は青春時代にトリップし過ぎたせいか、恥ずかしげもなくそんなことを思った。
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