プラスチック
「なぁなぁ、武内」
「ん?」
木村君が、一番後ろの席からわざわざやって来た。
制服のブレザーを私に見せて甘えた顔をする。
この顔は、何かを頼む時の顔だ。
こういう風にすれば、大概の事は赦されると思っている顔。
「ボタン取れちった。つけてくんない?」
やっぱり。
なんで、私?
私、木村君のお母さんじゃないよ。
そう思っても口にはしない。
だって、私はみんなから言わせれば、気が利くらしいから。
「いいよ。ブレザー貸して」
私は、鞄の中からソーイングセットを取り出してボタンを縫い付けた。
貴重な休み時間だったのにな。
そんな風に思っても、口に出すことはない。