Z 0 0 Ⅱ
「だから、足元には気を付けておけよ」
「え?」
「アリクイがいるから」
「アリクイ? 足元にアリクイですか」
「うん」
ラビの言う“アリ”と“アリクイ”が、茅野の認識しているそれらと別物であることに気付いたのは、そのすぐ後のことだった。
「アリクイは動物と見るとすぐ襲ってくるからな。小さいけど、さすがに集団で噛みつかれたらひとたまりもない」
不穏な空気を感じ取った茅野が、黙り込む。
すると、「ああ、ほら」とラビがナマケモノの背後を指差した。
それは、一匹の動物だった。
赤茶色と白のツートンカラーがかわいらしいが、大きさはそれなりにある。
ナマケモノの真似をしたようなうずくまり方をして、茅野の肩と同じくらいだ。
特徴的な長い口は、茅野の知っているアリクイのものである。
だが茅野は、自分の直感が当たったことを確信した。
ラビは、アリクイは足元にいる、小さい生き物だと言った。
だがこの動物は大きいのだ。
つまり、これはアリクイではない。
「あの、これは」
「こいつがアリだ」
「あ……アリ? アリクイは?」
「えーっと……あ、アリクイはこっち」
きょろきょろと足元を見回したかと思えば、ラビはしゃがみ込んで、地面を指差した。
途端にナマケモノの広い背中に登り始めた“アリ”に気を取られながら、茅野もそれに従う。
ラビが指差したのは、小さな虫だった。
いや、ナマケモノを見たあとだから小さく見えるだけかもしれない。
それは、アリにしては大きいようにも思える。
だがラビはそれを、“アリクイ”と呼んだのだ。