Z 0 0 Ⅱ
一番奥の大きな水槽には、ドロイとそっくりの形をした、真っ白な魚もいた。
約三十歳とプレートに書かれているそれは、水槽の前に茅野が立っても、一瞥もしない。
まるで何も見えていないような、ぼんやりとした目をしている。
隣に立ったラビが、言った。
「ドロイさんと同じハイギョの仲間だ。ブリーチっていう」
「そうなんですか? ……顔、似てないですね」
「ああ、それは」
静かな館内に、水槽の中で空気の泡が上る音と、ラビの低い声が、沁み入るように響く。
不思議な雰囲気に飲まれかかっていた茅野だったが、不意に、あまりに強引に、引き戻された。
「ドロイさんが特別」
「なんだよー?」
「ハイギョは」
「みんなこんなもんー」
子供の声に驚いて、茅野は振り返った。
その瞬間、館内にいるどんな生き物よりも鮮やかな黄緑色が、視界に飛び込んでくる。
「ドロイさんはお喋り好き」
「ブリーチたんは一人が好き」
「ティンキーはドロイさんが好き」
「クランキーはブリーチたんが好き」
「どころでおねーさん」
「どーちらさまー?」
若い葉のような色の髪をした、全く同じ顔が、茅野の肩ほどの高さで二つ並んでいた。
三白眼が茅野をじっと見る。
大きな口がぱかりと開いて、がたがたの歯並びが覗いた。
「わかったわかった、ヒーラギでしょう」
「知ってる知ってる、新入りでしょう」
「このセカイの人じゃ」
「ないんだもんねえ?」