Z 0 0 Ⅱ

声変わり前の少年のような声で、歌うように節のついた妙な口調。
ずいと顔を寄せてくる二人に、茅野は思わず体を引く。


「あ……あの、柊茅野です」


サングラスとニット帽を取って、やっとそれだけ言うと、二人はくるくると茅野の周囲を回り出した。

同じ顔、同じ髪型に、同じ服装が回っている。
茅野はどこに視線を定めればいいのか迷って、輪の外にいるラビに助けを求めた。
視線で縋られたラビは小さく溜め息を吐くと、片方の襟首をひょいと掴んだ。


「うわあ」
「捕まったー」
「お前は捕まってないだろ。一旦止まれ、そして黙れ」


途端に口を引き結んで気を付けの姿勢を取った二人を、ラビは横に並べる。
二人が目だけをきょろりと動かしてラビを窺い見ると、彼は二人の頭に手を乗せた。


「ティンキーとクランキー、まあ見ればわかると思うが、双子だ」
「よろしくおねがいします」
「この二人が熱帯ゾーンの担当飼育員だ」
「担当さんなんですか? へえ……」


二人は明るい空色のツナギの右腕に、腕章をつけていた。
上から緑、赤、緑と三本のラインが並んでいる。
これが熱帯ゾーンのカラーらしい。


「なにかわからないことがあればなんでも聞くといい。あと、ここは事務所も兼ねてて、こいつらは大抵ここにいる」
「はい」
「だから、熱帯ゾーンの生き物に噛まれたり刺されたりしても、二人のところに来い。一通りの血清は持ってるから」
「あ、はい……」


茅野は表情を引きつらせながら頷いた。
どうもこのゾーンはそんな話ばかりだ。
熱帯というから、色鮮やかな鳥や花や果物、響き渡るサルの鳴き声、そんなものを想像していたというのに。

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