Z 0 0 Ⅱ
ボートを繋いだ湖岸に戻ってきて、茅野は改めて、湖を見渡した。
目の前には緑色の水面が揺れている。
さっき、地面が苔むしているのは土に発熱する砂が混ざっているからだと、ラビが言っていた。
詳しく聞くと、赤石(あかいし)というそれ自体が熱を発する石があるのだそうだ。
純度などによって発する温度が変わるため、加工して、暖房や料理や風呂に使ったりしているらしい。
熱帯ゾーンの気温が高いのはその赤石を砕いた砂を土に混ぜてあるからで、湖のこちら側の水温が高いのも、その砂混じりの土が影響しているそうだ。
湖に流れ込む川は、山のゾーンから下っている。
反対側からは湖が流れ出す小川があって、その下流には、森のゾーンがある。
森というよりは樹海のようで、迷路のような遊歩道が縦横無尽に走り、担当飼育員以外は迷うこと必至の場所らしい。
「動植物も毛色が違うというか……担当もちょっと、猛獣使いみたいなことがあるから」とラビが説明していた。
だから、山のゾーンの見学を先にした方がいいと。
山のゾーンの担当は、「頭はおかしいけど動物が大好きな人」、だそうだ。
どんな人なのか想像もつかないが、ラビが「変だけどいい人」と言うのだから、きっと大丈夫だろう。
いつのまにか、この風変わりな副園長に、全幅の信頼を寄せていることに、茅野は気付いた。
「茅野ー、ボート出すぞー」
「あ、はい!」
来た時につまみ上げたクサヘビが、まだ同じ場所にいた。
どうやら日向ぼっこをしていたらしい。
踏んでしまわないように注意して跨いだ。
ラビの後ろ姿を追って、危なっかしい足元を小走りに行く。
いつも背中を見てばかりの自分に、まるで雛鳥の刷り込み、なんて思いながら。