Z 0 0 Ⅱ
「ほら、乗れよ」
重いブーツで、ボートに乗り込む。
熱帯のゾーンにクルマを止められる場所が少ないので、湖を越える時は主にボートを使うことにしているらしい。
ボートは木製で、五人はゆうに乗れそうな大きなものだった。
湖を渡るためのものにしては、思いの外頑丈そうだ。
そう思ったままを口にすると、オールを操りながら、平然とした顔でラビが言った。
「ああ、そりゃ……水中から何が出てくるか、わかったもんじゃないからな」
「……」
無表情のまま絶句した茅野に、ラビの口許がわずかにゆるむ。
それを見て、茅野は少しだけ眉を寄せた。
「からかうのやめてくださいよ」
「悪い、それは冗談。ボートが頑丈なのは、荷物運搬にも使うからと……この水のせいだよ」
「水?」と呟いて、茅野は湖面を見下ろす。
水は深い青色をしていた。
時々小さな魚の群れが、不規則な動きで泳いでいくのが見える。
あの魚たちも全てがコゴイたちのように賑やかに喋るのだとは、とても思えないほどの静かさだ。
透き通っているが、底が見えないほど深いらしい。
奥の闇でゆらめいているのは、ボートの影なのか、それとも他の何かなのだろうか。
気を付けろよ、とごくおざなりに言って、ラビは続けた。