【完】彼を振り向かせる方法
なんで俺はあんなことを聞いたのか、今ではよく理解できない。
でも彼女がしっかりと目を見て答えてくれたことは、よく覚えてんだ。
「俺って、いい加減な人間に見える?」
「え?どうしたの、急に」
「いいからいいから。別にいいよ、正直に言って。俺、慣れてるし」
いつもみたいに歯を見せて笑った。
「いい加減って、なんで?全然そんな風には見えないよ」
「……なにを、根拠に?」
「うーん……言葉にするのは難しいけど……。
大地くんって人の表情をよく見てる感じがするし、すごく周りを気に掛けてるでしょ?」
当たり前みたいな顔をして、首を傾げた彼女の言葉が、俺の中にストンと落ちた。
『翔の好きなところ、私たくさんあるよ。優しくてかっこよくて、割と誠実で、すっごく頼りがいのあるところとか』
穂乃香の言葉が蘇る。
そんな風に言われたのはじめてで、嬉しかった。
けど、ヒロチーの言葉を聞いたときに、全ての糸がほどけたような気がした。
そして気づいた。
俺が欲しかったものは賞賛の声でも黄色い声でもなく、
自然に向き合って自分を見てくれる、人の心だと。