【完】彼を振り向かせる方法
───……
ピーンポーン。
暴れる心臓を抑えながら、立派な一軒家のインターホンを押す。
カメラ付きのそれから思わず視線をそらした先には、
"雛水"
と大理石に掘られた表札。
あぁぁ……いきなり帰りたくなってきちゃったよ……。
けど今日で終わりなんだ。
この家の中に入るのもきっと、最初で最後。
ガチャッ……
「おっ……」
目の前の扉が開いて、先輩が現れた。
てっきりインターホンから返事があると思っていた私は、
思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
「入って」
私の顔を見るなり、中へと促す先輩。
……落ち着け、平常心平常心。
呪文のように心の中でそう言い聞かせて、私は1歩を踏み出した。