【完】彼を振り向かせる方法
玄関でミュールを脱ぐ動作までもが、長く感じられるこの空間。
一つ一つに神経を使ってしまう。
「誰もいないし、ソファにでも座ってなよ」
「はい……」
リビングに入ってすぐ、私は言われた通りに腰掛けた。
ボフッ。
そんな感じで私を包み込む、高級感の漂う黒革張りのソファ。
すごいな……シャンデリア。
上を見上げてあんぐりと口を開けてしまう。
レストランとかで見たことはあるけど、普通のお宅でお目にかかるのは初めてだ。
いや、もはや普通じゃないけどね。
白で統一された壁に、絵画がいくつも飾られている。
しかもあの絵……見たことあるし。
美術に疎い私でも分かるんだから、レプリカだとしても相当なお値段なはず。
テレビも私の家のものよりひとまわりは大きい。
私の座るソファの横にあるヨーロピアン風のガラスの棚には、ワイングラスがたんと並べられていた。