【完】彼を振り向かせる方法
念のためにとっておく……。
そっか……先輩にとって私は、スペアキーみたいなものだったのか。
「どうして、そんなこと」
消え入りそうな声で、そう聞いた。
「微妙な関係だけど……本気で好きな奴がいて。
でもそいつには、勇気がなくてずっと気持ちを伝えられないでいた」
好きな奴……。
そう聞いたときに、もしやと1人の人物が浮かび上がった。
「このまま微妙な関係でいてもいい。
だけど気持ちを伝えて振られるときが来るかもしれない。
そう考えたら1人になるのが怖くなって、千紘の気持ちを弄んだんだ」
急所の痛みが治まってきたのか、少しだけ和らぐ彼の口調。
だけど私の心臓は、ドクドクとうるさいままだった。
「それで……千紘を失うって気づいた時には、お前を殴ってた。
悪かったな、痛い思いさせて……」
「……」
私はなにも、言えなかった。