【完】彼を振り向かせる方法
「さっきオレンジしか買って来なかっ……なにしてんの?」
カケちゃん……!
尻無浜くんから視線を逸らして、お盆を両手で持つ彼の姿を確認した。
その瞬間、切迫していた心の中がスーッと一気に楽になる。
尻無浜くんが私の前を遮っていなければ、勢いで抱きついてしまっていたかも。
「おー、翔。おかえりす~」
ガシャンッ!
目の前の彼が呑気に言葉を発したのと同時、カケちゃんは乱雑にお盆を机に置いた。
グッ……!
そしてすぐさま、頬に触れていた尻無浜くんの腕を捻るように掴んで、私から引き離した。
「尻無浜、お前なにしてたわけ?」
次は私が瞬きをした刹那、カケちゃんは鋭い目つきで睨みながら
尻無浜くんの胸ぐらを掴んでいた。
いつの間にか、呼び方も『しなしー』から『尻無浜』に変わっている。
そのせいなのか、部屋に入る前の怒り方とは、比べ物にならないくらいの威厳があった。