【完】彼を振り向かせる方法
あぁぁ……そんなカケちゃんにまで見入ってしまう私って……。
目の前で緊迫した空気が漂っているというのに、心底呆れてしまう。
なにもかも、カッコよく見えちゃうんだ。
「いやいや待てよ翔、俺なにもしてねーし。な?千紘ちゃん」
立て膝のまま胸ぐらを掴まれている尻無浜くんは、視線だけをこちらに向けて言った。
「え、えっと……」
「名前」
不意に話を振られた私が戸惑っていると、カケちゃんは鳥肌が立つほど低い声を出した。
「え?」
「千紘ちゃんとか呼ばないで、マジで」
カケちゃんが表情を変えずにそう言うのを聞いて気付いた。
そういえばさっき、尻無浜くんは私のこと『上条さん』じゃなくて『千紘ちゃん』と呼んでいた。
「なんで?いいじゃん別に」
呑気に応える尻無浜くんの言葉に、カケちゃんの顔はさらに強張るように見えた。