【完】彼を振り向かせる方法
「……何かしたわけ?」
至近距離で俺は、奴を睨みつけた。
周りからザワザワと聞こえる、春桃の生徒たちの声。
けど今は、誰に見られていようと関係ない。
「お前のことが好きだと言った彼女を殴った。平手打ちで」
ピクリとも顔を動かさずに、相手はそう言った。
―――『電柱にぶつかっちゃって』
ヒロチー、ごめん。
実は俺あのときから、何かを隠そうとしてることはわかってた。
理屈なんてないけど、すぐにわかった。
電柱にぶつかるなんてもっとも、ヒロチーっぽい嘘だけど。
「……謝ったんすか」
殴りたい衝動を抑えて、そう聞いた。
本当に何かを我慢するときって、声が震えるんだな。
「謝った。あいつが、止めてくれたんだよ」