【完】彼を振り向かせる方法
雛水さんも俺から目を逸らすことなく、ゆっくりと話しだした。
「千紘に好きな奴が出来たってことが信じられなくて、散々あいつを傷つけて、二回も手を挙げた」
二回も……。
ギュッとブレザーを掴む拳に力を入れる。
「だけど……あいつが嘘八百を吐いたおかげで、俺は目を覚ました」
「嘘……」
「あぁ。自分は遊び人で、俺は大勢いる男の内の1人だってな」
その瞬間、フッと目の前の男の頬が緩んだ。
「あんなに真剣に告白してくれた千紘が、遊び人だなんて……有り得ないだろって思ったんだよ」
その言葉を聞いて、俺はブレザーを掴む力を弱めた。
「それだけじゃない……千紘はいつも、あんたのためだけに一生懸命で、
いくらそばにいたって、俺の気持ちに気付かないくらい……あんたのことしか見えてなかった」
ただ、あんたは違うんだろ?
―――『先輩に電話したらね……女の人の声がしてて、それで私……』
それは、あの合宿先で、俺がヒロチーの涙を初めてみた瞬間。