【完】彼を振り向かせる方法
座っているカケちゃんと、机に手を添えてしゃがむ彼女との距離は、相当に近い。
加えて、カケちゃんの顔を覗き込むように接近する。
ダメだな……私、こういうの。
見てるだけで涙が出そうになるなんて、おかしいよ。
ただ、女の子とカケちゃんが近距離にいるだけじゃん。
そんなのいつも、よくあることじゃん。
だけどそれでも、鼻がツンとなるのは……彼女とカケちゃん、2人の間に、
目に見えない何かを感じてしまったから。
私が決して踏み込めない、何か。
そして、2人を見て不意によぎった凛の言葉。
──『この学校にね、大地くんと同じ中学出身で、彼が唯一本気で付き合ったらしい子がいるって聞いた』
そう、確かこんな感じ。
根拠なんてないけど、分かる。
私がカケちゃんを好きだから。
穂乃香ちゃんはカケちゃんの前の彼女だって、女の勘がそう言っている。
「ねぇ翔、聞こえてる?」
すると、答えを急かす穂乃香ちゃんの、甘い声。
「リレーは出る。つーかごめんヒロチー、帰るね俺」
カケちゃんはギッと椅子をひくと、リュックを背負って立ち上がる。
彼はその間、一度も穂乃香ちゃんと目を合わせなかった。