【完】彼を振り向かせる方法
そのままだんまりになってしまった私。
変に顔の温度が急上昇して、身体がもの凄く熱い。
廊下を歩いていたはずの私たちの足は、知らぬ間に止まっていた。
「あの翔が、手も繋がないなんてね~……」
顎に人差し指を添えて、不思議そうに呟く穂乃香ちゃん。
こんな仕草一つで、きっと何人もの男の人を虜にしてきたんだろうな……。
「翔ってさぁ実は、キスされるのすっごく弱いんだよ。知ってた?」
え……?
呑気なことを考えていた私に、唐突な穂乃香ちゃんの言葉が嫌に刺さった。
元恋人なら、キスしたことだってもちろんあるはず。
そんなのとうに分かっていたはず……なのに、胸が痛いほど締め付けられる。
「特に耳。もう真っ赤になっちゃって……ほんと、可愛かったなぁ」
聞きたくない。
これ以上、穂乃香ちゃんの口からそんなの、聞きたくない。
そう思っているはずなのに、私は耳を塞ぐことはできなかった。
そして穂乃香ちゃんは、目を細めてニコリと笑う。
この笑顔の奥に何が隠されているかなんて、もちろんこのときの私には、知る由もなかったんだけど……ね。