猫を撫でる。
美梨は涼太が好きだ。
でも、和臣との結婚生活を終わらせる気などなかった。
和臣は和臣で美梨にとって大切な人なのだ。
涼太のほうも決して美梨に離婚して
欲しい、とは言わなかった。
それを言ってしまえば、美梨を苦しめるとわかっていたから。
『 美梨ともっと早く
出逢いたかったな…』
涼太は、よくそう言った。
和臣は十月の辞令で東京の本社勤務になった。
向こうの残務が終わり次第、美梨が一人で守っている家に帰ってくる。
美梨は貞淑な妻に戻らなければならない。
これ以上、続けられなかった。
設計課の暑気払いの後、涼太と二人で飲みに行った美梨は、お酒の勢いで彼のアパートに泊まった。
涼太の部屋は和室二間に台所、風呂トイレのドアは引き戸というレトロな部屋で、飾り気もなくいかにも男の部屋と
いった感じだった。
大学進学の為、山梨からこちらに移り住んだ涼太は、就職してからもずっと
この部屋に住み続けている、と言った。