猫を撫でる。
「ダメよ」
美梨は首を振った。
涼太は目を丸くした。
「なんで?」
石垣島でのような夜をまた過ごしてしまったら、ますます別れることが難しくなってしまう。
美梨のほうにも未練はたっぷりあった。
でも、断ち切らなければならない。
俯いて、何も答えない美梨に
涼太は言った。
「じゃ、友達として行こう。
泊まっても何にもしないから。
絶対。命にかけて誓う。
友達としてならオッケーでしょ?」
「…そうね」
つい言ってしまった。
「なら、決まり!
旦那は再来週帰ってくるんでしょ?
じゃ、来週の土日、箱根でも行こう」
涼太はノートパソコンを持ち出し、テーブルに置いた。
パソコンを広げ、キーボードをパチパチと打ち始めた。
「箱根なら、この中のどれがいい?」
パソコンのディスプレイを
美梨のほうに向けて言う。
何軒かの箱根の宿が紹介されている画面だ。
芦ノ湖と紅葉の山々の画像に、
美梨の目は吸い寄せられる。
「えっとね…」
何時の間にか、美梨は涼太のペースに
乗せられてしまった。
さっき、成立した筈の別れ話は忘れてしまったかのように。