猫を撫でる。
美梨が事情を話すと
「そんなもん、今日じゃなくても
大丈夫だろ」
涼太は呆れ顔をした。
「いいんです。私が仕事が遅いから、
いけないんです」
美梨は健気に言った。
「手伝うよ。上のシュレッダーで
やるから半分貸して」
涼太は書類を持ちながら
「俺、車で現場に戻るんだ。吉川さん、駅まで送るよ。終わったら待ってて」
と言った。
これが初めて美梨と涼太が交わした会話だった。
「仕事慣れた?」
車体に社名の入った社用車を運転しながら、涼太が聞く。
「はい。なんとか」
助手席の美梨は、答えながら涼太の顔を観察する。
よく見ると涼太は目が細く垂れていて、鼻も団子気味だ。
それでも涼太がいい男なのは、
顔が小さく、背が高いからだろう。
夫に『美梨は人に会った時、人の顔をじいっと見過ぎだよ』と注意されたことがあったけれど、なかなか治らなかった。
いきなり、涼太が美梨のほうを向いて
一瞬、目が合った。
「えっと、設計課の方ですよね?」
美梨が聞いた。