EVER BLUE
バーンッと勢い良く扉が開き、駆け込んで来たのは勿論千彩で。わんわんと声を上げて泣く千彩に続き、有紀鵜と智人がオロオロと狼狽えながら続いて入って来る。
「ちーちゃんっ」
「イヤー!はる!はるっ!わーん!」
「あぁ…ごめん、ごめん。こっちおいで、ちぃ」
両手を広げると、これまた勢い良く飛び込んで来る。あれからずっと泣き通しだったか…と、疲れた表情を浮かべる姉と弟に「すまん」と小さく手を挙げた。
「ちさもう帰るー!お家帰るー!ばーちゃまおってもいいから帰るー!」
「ごめんって。せや、ちぃプリン食べよか?」
「…プリン?」
「もう話終わったから食べてええで」
「…食べる」
プリンという単語を出すと、散々泣いていたのが嘘のようにピタリと大人しくなった。それを見てため息をついたのは、言うまでも無く宥めるのに苦労した有紀だ。そんな手があったのならば、先に言え!と。
「姉ちゃん、悪いんやけど…」
「はいはい、プリンね。智、お姉ちゃんの分も買って来たんやろね?」
「おぉ」
「よろしい」
満足げにキッチンへ向かう有紀とは対照的に、智人はまだ不満げだ。じとりと纏わり付く視線に堪りかね、晴人は眉根を寄せる。
「はる怖い顔…」
「ん?あぁ、ごめん」
「ぱぱとケンカした?ちさのせい?ごめんなさい…」
しゅんとする千彩の頭を撫で、前髪越しに額にちゅっと口づける。あらあら、と嬉しそうな母と、どうにもバツが悪そうな父。やはりここでも夫婦は対照的だった。
「お父さんが怒鳴るからでしょ?」
「いや、それは…」
「怖かったねぇ、ちーちゃん」
母に問われ、遠慮気味にコクンと頷く千彩。ちょうどプリンを持って来た有紀が、じとりと父を睨み付けた。
「あたしん時も散々やったもんねぇ、お父さん」
「あれはやなぁ…」
「可哀相に、ちーちゃん。はい、プリンどうぞ」
「ありがとう、おねーちゃん?」
大事そうに両手でそれを受け取り、千彩はチラリと晴人を見上げる。それに「ん?」と返すと、今度は父に視線を遣ってプリンを差し出した。
「パパ、もう怒ってない?ちさのプリンあげるから、はると仲直りして?もうケンカしたらイヤ」
それにガックリと肩を落としたのは吉村で。慌ててそれを奪い取り、追いかけて来た千彩を窘める。
「ちー坊…おりこーにしてや、頼むから」
「ちさいい子にしてるよ?」
「さっきまで泣いたり喚いたりしとったがな。もう17歳やで?おにーさま恥ずかしいわ。すんません、親父さん」
「だって…ちさはると一緒に居りたかったんやもん…」
「またそんなん言うて…ハルさんに迷惑かけたらあかん言うてるやろ?」
「だって…」
むぅっと膨れた千彩が、ギュッと晴人にしがみ付く。どうやら助け舟が欲しいらしく、じっと見上げて訴えていた。
「ケンカしてた俺らが悪かったな。よしよし」
「お兄さぁ…そうゆう趣味やったんやな。そりゃなかなか結婚せんわな」
「あぁ?」
不機嫌に睨み付けると、智人はふいっと顔を背ける。それはもう言われ飽きた。が、弟に言われるのはまた別物だ。ギュッと拳を握り締めると、無言で頷き有紀に合図を送る。ペシンと小気味良い音が響き、それに驚いた千彩がキョロキョロと辺りを見渡した。
「…たぁ!姉ちゃん!」
「だって晴人がやれって。プリン貰ったしー」
「俺が買いに行ったんやぞ!」
「知らーん」
「やめんか!お前らはいくつになってそないなケンカしとるんや!」
まさに鶴の一声。父の一喝で、二人共しゅんと大人しくなった。晴人にしてみればしてやったりだ。そう言えば昔からこうして上と下を操るのが上手かったな…と、母がうふふと笑い声を洩らす。
「そう言えば晴人、家をどうするとか言ってたんやないの?」
ふと思い出したかのように言う母に、晴人は「あぁ…」と短く返事をして父に向き直った。
「部屋一つ借りられんかな?出来ればすぐ」
「お前こっち帰って来るんか?」
「いや、ちゃうんや。吉村さんと千彩が住む部屋」
「お前も帰って来んか」
父の言い分は尤もだ。けれど、今の事務所に所属している限りそうもいかない。関西にもJAGの事務所はあるけれど、晴人は今の青山の事務所が気に入っているのだ。
「俺は仕事あるから」
「仕事と千彩ちゃんどっちが大事なんや」
「いや、そりゃ両方やろ。わけのわからん質問すんなよ」
「カメラマンなんかこっちでも出来るんちゃうんか。恵介連れて帰って来い」
「いや、帰って来たとしても恵介は要らんやろ」
「そうゆうわけにはいくか。一緒に行ったんやから一緒に帰って来い。一人にしとったら何するかわからんやろが」
両親を初め、有紀も智人も恵介のことはよく知っている。皆がうんうんと頷く中、晴人だけは首を横に振る。
「あいつの仕事はこっちでは出来ん」
「ほなお前は恵介のために東京におるんか」
「そうやない。俺は恵介と組むからええ仕事が出来るし、恵介も俺と組むからええ仕事が出来る。あっちには他にもそんな仲間がおるんや」
「ほな千彩ちゃんはどないするんや。吉村君に任せっきりになるやないか」
つい数十分前まで反対していたとは思えぬ父の口ぶりに、晴人が思わず苦笑いを零したのは致し方ないことだろう。知った名前が出てきてうずうずしている千彩の頭を撫で、ペリッとプリンの蓋になっているフィルムを剥いだ。
「はい。これ食べて大人しくしといて」
「けーちゃん?けーちゃんのお話?」
「そうそう。後でな?食べへんのやったら姉ちゃんにやってまうで?」
「ダメ!ちさが食べる!」
パクッと一口。そして、また一口。嬉しそうにプリンを頬張る千彩の背をポンポンと叩き、少し背筋を伸ばす。晴人の神妙な表情に、父が眉間に皺を寄せた。
「二月に18になるから、それから俺が引き取る話になってる。それまでは父親の元で暮らすってゆう約束」
「吉村君はそれでええんか?」
「はい。私がそうやって無理にお願いしたんですわ」
「そうか。でも、仕事で家空けることも多いんちゃうんか?」
「はい。その時は実家が吉住町なんでそこに預けようか思うてます」
「吉住町?隣町やないか」
「そうなんですわ。偶然近くで驚いたんです」
「そうか…家にはご両親だけか?」
「うちは一人っ子なもんで、両親だけが家におります」
うーんと唸り、チラリと隣に座る母に視線を送る父。それを察した母が、にっこりと微笑んだ。
「ほんなら、お兄さんがお仕事で留守の時は、ちーちゃんはうちに来てたらどう?」
「いやっ、そんなお世話になるわけには…!」
「お父さんもそうしてやれって。ね?」
「家族は多い方がええやろ」
うんと頷き、父はプリンを頬張る千彩を見遣る。その視線に気付いた千彩が、「ん?」と首を傾げた。
「千彩ちゃん、晴人がおらんでもここに泊まれるか?」
「はるどっか行くん?」
「ん?俺は仕事があるから明日帰るで。恵介もメーシーも待ってるからな。俺がおらんとあいつら仕事ならんやろ?」
「うん。今日は?」
「今日はここ泊まるけどな。パパが言うてんのはそうゆうことやなくて、お兄様が仕事でおらん時にここに泊まりに来るか?って意味や」
「ちさ一人で?」
「そうそう。一人で泊まれる?」
「ちさここのお家の子になるん?おにーさまは?じーちゃまとばーちゃまは?」
どうにも千彩には解釈が難しかったらしく、スプーンを止めてうぅんと首を傾げてしまった。その姿を同じように首を傾げて見つめていた父に、晴人が説明する。
「あんま難しいこと言うたら、こないして悩んでまうから。ほんで、よくわからん解釈をし出す」
「…そうか」
「すんません。私の教育が行き届いてないばっかりに…申し訳ないです」
「いや、吉村さんのせいちゃいますよ。これからまた色々教えていくから心配せんといてください」
「何や難しい顔しとるぞ。晴人、ちゃんと説明したらんかい」
「ん?おぉ」
どう説明しようかと思案していると、嬉しそうににこにこと笑った母が助け舟を出した。
「ちーちゃんは晴人と家族になるんでしょ?」
「んー…うん」
「だったら、晴人の家族はちーちゃんの家族になるんよ?ママはちーちゃんのママやし、パパはちーちゃんのパパ」
「ちさのママと…ちさのパパ!」
「そうよー。だから、お兄さんがお仕事でいない時は、うちに泊まりにおいで?ちーちゃん一人じゃ寂しいでしょ?」
「うん!」
さすが三人も子供を育てただけのことはある。と、晴人は素直に感心した。
「ちさのママとちさのパパ…家族が増えたね!」
「せやな。嬉しいか?」
「うん!お姉ちゃんもお兄ちゃんも!」
「お兄ちゃん…んー、まぁええか」
満面の笑みでギュッと両手を握る千彩に、皆揃って頬を緩ませる。どこか不満げにしていた智人も、優しげに目を細めて喜ぶ千彩を見つめていた。それに目を付けたのは、やはり目敏い晴人だ。
「おい、智。やらんぞ」
「は?」
「これは俺のやからやらんぞ、言うてんねん。手ぇ出したら承知せんからな」
「いや、要らんしな」
「おにーちゃんプリン要る?」
「いや、要らんから」
千彩の素っ頓狂な言葉に、その場が和む。その場を和ませた本人は、ん?と首を傾げているけれど。
「家族増えて良かったな。幸せか?」
「うん!幸せ!」
大きく頷いた千彩を見て、晴人は確信する。こいつなら上手くやっていける、と。
肩の荷が一つ降り、晴れ晴れとした気分でその夜は父と吉村との三人で仲良く酒を汲み交わした。
「ちーちゃんっ」
「イヤー!はる!はるっ!わーん!」
「あぁ…ごめん、ごめん。こっちおいで、ちぃ」
両手を広げると、これまた勢い良く飛び込んで来る。あれからずっと泣き通しだったか…と、疲れた表情を浮かべる姉と弟に「すまん」と小さく手を挙げた。
「ちさもう帰るー!お家帰るー!ばーちゃまおってもいいから帰るー!」
「ごめんって。せや、ちぃプリン食べよか?」
「…プリン?」
「もう話終わったから食べてええで」
「…食べる」
プリンという単語を出すと、散々泣いていたのが嘘のようにピタリと大人しくなった。それを見てため息をついたのは、言うまでも無く宥めるのに苦労した有紀だ。そんな手があったのならば、先に言え!と。
「姉ちゃん、悪いんやけど…」
「はいはい、プリンね。智、お姉ちゃんの分も買って来たんやろね?」
「おぉ」
「よろしい」
満足げにキッチンへ向かう有紀とは対照的に、智人はまだ不満げだ。じとりと纏わり付く視線に堪りかね、晴人は眉根を寄せる。
「はる怖い顔…」
「ん?あぁ、ごめん」
「ぱぱとケンカした?ちさのせい?ごめんなさい…」
しゅんとする千彩の頭を撫で、前髪越しに額にちゅっと口づける。あらあら、と嬉しそうな母と、どうにもバツが悪そうな父。やはりここでも夫婦は対照的だった。
「お父さんが怒鳴るからでしょ?」
「いや、それは…」
「怖かったねぇ、ちーちゃん」
母に問われ、遠慮気味にコクンと頷く千彩。ちょうどプリンを持って来た有紀が、じとりと父を睨み付けた。
「あたしん時も散々やったもんねぇ、お父さん」
「あれはやなぁ…」
「可哀相に、ちーちゃん。はい、プリンどうぞ」
「ありがとう、おねーちゃん?」
大事そうに両手でそれを受け取り、千彩はチラリと晴人を見上げる。それに「ん?」と返すと、今度は父に視線を遣ってプリンを差し出した。
「パパ、もう怒ってない?ちさのプリンあげるから、はると仲直りして?もうケンカしたらイヤ」
それにガックリと肩を落としたのは吉村で。慌ててそれを奪い取り、追いかけて来た千彩を窘める。
「ちー坊…おりこーにしてや、頼むから」
「ちさいい子にしてるよ?」
「さっきまで泣いたり喚いたりしとったがな。もう17歳やで?おにーさま恥ずかしいわ。すんません、親父さん」
「だって…ちさはると一緒に居りたかったんやもん…」
「またそんなん言うて…ハルさんに迷惑かけたらあかん言うてるやろ?」
「だって…」
むぅっと膨れた千彩が、ギュッと晴人にしがみ付く。どうやら助け舟が欲しいらしく、じっと見上げて訴えていた。
「ケンカしてた俺らが悪かったな。よしよし」
「お兄さぁ…そうゆう趣味やったんやな。そりゃなかなか結婚せんわな」
「あぁ?」
不機嫌に睨み付けると、智人はふいっと顔を背ける。それはもう言われ飽きた。が、弟に言われるのはまた別物だ。ギュッと拳を握り締めると、無言で頷き有紀に合図を送る。ペシンと小気味良い音が響き、それに驚いた千彩がキョロキョロと辺りを見渡した。
「…たぁ!姉ちゃん!」
「だって晴人がやれって。プリン貰ったしー」
「俺が買いに行ったんやぞ!」
「知らーん」
「やめんか!お前らはいくつになってそないなケンカしとるんや!」
まさに鶴の一声。父の一喝で、二人共しゅんと大人しくなった。晴人にしてみればしてやったりだ。そう言えば昔からこうして上と下を操るのが上手かったな…と、母がうふふと笑い声を洩らす。
「そう言えば晴人、家をどうするとか言ってたんやないの?」
ふと思い出したかのように言う母に、晴人は「あぁ…」と短く返事をして父に向き直った。
「部屋一つ借りられんかな?出来ればすぐ」
「お前こっち帰って来るんか?」
「いや、ちゃうんや。吉村さんと千彩が住む部屋」
「お前も帰って来んか」
父の言い分は尤もだ。けれど、今の事務所に所属している限りそうもいかない。関西にもJAGの事務所はあるけれど、晴人は今の青山の事務所が気に入っているのだ。
「俺は仕事あるから」
「仕事と千彩ちゃんどっちが大事なんや」
「いや、そりゃ両方やろ。わけのわからん質問すんなよ」
「カメラマンなんかこっちでも出来るんちゃうんか。恵介連れて帰って来い」
「いや、帰って来たとしても恵介は要らんやろ」
「そうゆうわけにはいくか。一緒に行ったんやから一緒に帰って来い。一人にしとったら何するかわからんやろが」
両親を初め、有紀も智人も恵介のことはよく知っている。皆がうんうんと頷く中、晴人だけは首を横に振る。
「あいつの仕事はこっちでは出来ん」
「ほなお前は恵介のために東京におるんか」
「そうやない。俺は恵介と組むからええ仕事が出来るし、恵介も俺と組むからええ仕事が出来る。あっちには他にもそんな仲間がおるんや」
「ほな千彩ちゃんはどないするんや。吉村君に任せっきりになるやないか」
つい数十分前まで反対していたとは思えぬ父の口ぶりに、晴人が思わず苦笑いを零したのは致し方ないことだろう。知った名前が出てきてうずうずしている千彩の頭を撫で、ペリッとプリンの蓋になっているフィルムを剥いだ。
「はい。これ食べて大人しくしといて」
「けーちゃん?けーちゃんのお話?」
「そうそう。後でな?食べへんのやったら姉ちゃんにやってまうで?」
「ダメ!ちさが食べる!」
パクッと一口。そして、また一口。嬉しそうにプリンを頬張る千彩の背をポンポンと叩き、少し背筋を伸ばす。晴人の神妙な表情に、父が眉間に皺を寄せた。
「二月に18になるから、それから俺が引き取る話になってる。それまでは父親の元で暮らすってゆう約束」
「吉村君はそれでええんか?」
「はい。私がそうやって無理にお願いしたんですわ」
「そうか。でも、仕事で家空けることも多いんちゃうんか?」
「はい。その時は実家が吉住町なんでそこに預けようか思うてます」
「吉住町?隣町やないか」
「そうなんですわ。偶然近くで驚いたんです」
「そうか…家にはご両親だけか?」
「うちは一人っ子なもんで、両親だけが家におります」
うーんと唸り、チラリと隣に座る母に視線を送る父。それを察した母が、にっこりと微笑んだ。
「ほんなら、お兄さんがお仕事で留守の時は、ちーちゃんはうちに来てたらどう?」
「いやっ、そんなお世話になるわけには…!」
「お父さんもそうしてやれって。ね?」
「家族は多い方がええやろ」
うんと頷き、父はプリンを頬張る千彩を見遣る。その視線に気付いた千彩が、「ん?」と首を傾げた。
「千彩ちゃん、晴人がおらんでもここに泊まれるか?」
「はるどっか行くん?」
「ん?俺は仕事があるから明日帰るで。恵介もメーシーも待ってるからな。俺がおらんとあいつら仕事ならんやろ?」
「うん。今日は?」
「今日はここ泊まるけどな。パパが言うてんのはそうゆうことやなくて、お兄様が仕事でおらん時にここに泊まりに来るか?って意味や」
「ちさ一人で?」
「そうそう。一人で泊まれる?」
「ちさここのお家の子になるん?おにーさまは?じーちゃまとばーちゃまは?」
どうにも千彩には解釈が難しかったらしく、スプーンを止めてうぅんと首を傾げてしまった。その姿を同じように首を傾げて見つめていた父に、晴人が説明する。
「あんま難しいこと言うたら、こないして悩んでまうから。ほんで、よくわからん解釈をし出す」
「…そうか」
「すんません。私の教育が行き届いてないばっかりに…申し訳ないです」
「いや、吉村さんのせいちゃいますよ。これからまた色々教えていくから心配せんといてください」
「何や難しい顔しとるぞ。晴人、ちゃんと説明したらんかい」
「ん?おぉ」
どう説明しようかと思案していると、嬉しそうににこにこと笑った母が助け舟を出した。
「ちーちゃんは晴人と家族になるんでしょ?」
「んー…うん」
「だったら、晴人の家族はちーちゃんの家族になるんよ?ママはちーちゃんのママやし、パパはちーちゃんのパパ」
「ちさのママと…ちさのパパ!」
「そうよー。だから、お兄さんがお仕事でいない時は、うちに泊まりにおいで?ちーちゃん一人じゃ寂しいでしょ?」
「うん!」
さすが三人も子供を育てただけのことはある。と、晴人は素直に感心した。
「ちさのママとちさのパパ…家族が増えたね!」
「せやな。嬉しいか?」
「うん!お姉ちゃんもお兄ちゃんも!」
「お兄ちゃん…んー、まぁええか」
満面の笑みでギュッと両手を握る千彩に、皆揃って頬を緩ませる。どこか不満げにしていた智人も、優しげに目を細めて喜ぶ千彩を見つめていた。それに目を付けたのは、やはり目敏い晴人だ。
「おい、智。やらんぞ」
「は?」
「これは俺のやからやらんぞ、言うてんねん。手ぇ出したら承知せんからな」
「いや、要らんしな」
「おにーちゃんプリン要る?」
「いや、要らんから」
千彩の素っ頓狂な言葉に、その場が和む。その場を和ませた本人は、ん?と首を傾げているけれど。
「家族増えて良かったな。幸せか?」
「うん!幸せ!」
大きく頷いた千彩を見て、晴人は確信する。こいつなら上手くやっていける、と。
肩の荷が一つ降り、晴れ晴れとした気分でその夜は父と吉村との三人で仲良く酒を汲み交わした。