おっかけ!
榊原くんの顔が、ゆっくり後ろにひきました。
『ほら、かわいい。』
かわいくなんてないよ…。
私は、とまっていた手を動かしました。どんどんプリントのやまが、消えていきました。
どうしてでしょう。さっきより、手の動きがはやかったです。
『おっおわった…。』
時計の針は、4と11をさしていました。
もう、仮入部にはまにあわないなぁ…。
『小春ちゃん、おつかれさま。』
『うん。ホントお疲れだよ。』
えっ??なに?
私のおでこに冷たいものがあたりました。
『んっ?』
私は、冷たいものがあたったところをさわりました。ほんのすこしぬれています。
『どう?びっくりした?』
『んっ?』
『えっ?わかってないの??じゃあもう1回…』
『いいよ…いいよ…別に…そんな…』
『ダぁメ…』
『いい…いい…』
『じゃあ…目つぶって…』
いわれるまま、目を閉じました。
んっ?またあの感覚が…
まさかね…
んっ?
私がおもったそのまさかでした。
『榊原くん、最低!!』
私は立ち上がり、榊原を上からみおろしました。
榊原は、笑っています。声もたてずに。
『小春ちゃんって、ホントかわいい。僕のお人形さんになってほしいなぁ…』
なに?この人…?
人間をお人形さんだといってくる榊原は、おかしい。そう思いました。
『ねぇ…??僕のお人形さんになってよ?!いっぱいかわいい服もきせてあげる』
『キモい…』
『へぇ…だから…?』
『キモい…』
『ん?だから…?』
この人、意味がわからないです。
キモいに理由なんてありませんよ。
私は、作り上げたプリントのやまをもって職員室にいきました。
『せんせ、ここにおいときますね。』
『おぉ。』
先生は、『ありがとう』の一言もくれません。私のことなんて、なんとも思ってないのでしょう。
お礼を言えない人は、嫌いです。
私は、くつばこにいってくつをはきかえ、渚のところに逃げるようにいきました。
5時12分。待ち合わせ時間を12分もすぎています。渚は、まっているのでしょうか。
5時13分。待ち合わせ場所に、人影がみえました。渚です。渚は、まっていてくれました。でも渚以外の人影がもう1つ。
『ごめん…またせちゃって…』
『別にいいよっ!榊原に事情きいたし。』
榊原のほうをみると、彼は、つくり笑顔でこっちをみていました。
すると榊原は、こっちにむかってきて、私の手をひっぱりました。さぁ、いこう。そういっているような気がしました。
渚は、まって…といってついてきました。私は、手をふりはらって渚のとこへいきました。もちろん、榊原もついてきました。
『なに逃げてんのよ!小春。榊原くんがかわいそうでしょ!』
『いやっ…別に、逃げてるとかそんなんじゃなくて…』
『ねぇ?榊原?逃げられるとかいやだよねぇ(笑)』
榊原は、またあの笑顔をつくっています。
私の手は、ふるえていました。
榊原と私の間に渚をいれてあるいていきました。2人は、はなしがはずんでいます。
いっそのこと、渚をきみのお人形さんにでもしたらいいのに。私なんかより、渚のほうがずっとずっとかわいいですよぉ…
なんだかやきもちやいているみたいだ…。榊原なんて…どうでもいいのに…。私には、千晶くんがいるんだから…。