K・K・K
ターニングポイント
「君、不思議な音を出すね。」
男性は、香の瞳の奥を見ているようだった。
香は、怖くなって目線を落とした。
「あぁ、ごめん。突然知らないおじさんに、声かけられたらビックリするよね。決して怪しい者ではないよ。」



「・・・・・・・・・・・・・・・。」



「私は、君のピアノを聴きにこのバーに通ってるんだよ。」

「・・・・・・・・・。」

「香ちゃんがここにバイトで入ったのが高校に入学してすぐ位だったから、その頃からいらっしゃてるんだよ。」
マスターがニコニコしながら言った。

香は目を上げて、、、。
マスター、、、それからその男性を見た。


男性もニコニコしていた。

(変な人。)

「マスター、ストーカーみたいに言わないで下さいよ。」(笑)
男性は持っていたグラスをグィっと上げて、景気よく飲み干した。


コトン。


「別に君を見張っていた訳ではないんだよ。ただ、初めて君のピアノを聴いた時、こう何て言うか、すごく切ない気持になって、、、。それで気になってしまって、、、。何で君はこんな音色が出せるんだろう?って考えたんだ。」

香は男性の話を垂直に聞いていた。


(わかんないし。)

これが香の正直な答えだ。
自分でもわからない。ただただピアノを弾いているだけだったから。

男性のおしゃべりは止まらなかった。

お酒が入っているせいもあって、高揚しているようだ。

「それで、、、君は、その・・・・、話す事ができないだろ?・・・・・。それが原因ななのかなぁ~、なんて勝手に想像したりしたんだけど・・・・。」
男性は申し訳なさそうに言った。


(関係ないじゃん。)
香はまぶたを上げていた筋肉の緊張を緩めた。

(だいたい、何で見ず知らずのおじさんに、こんなに分析されなきゃならないのか、意味わかんない。)
香は呟いた。


「気を悪くしたなら謝る。ごめんね。だけど、そうだとしても、君のピアノは素晴らしいよ!!人を引き付ける何かがあるんだ。」

男性の目は輝いていた。

(そのおしゃべりマウスをとじなさい。)
香は、男性の顔を垂直に見た。






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