K・K・K
下車駅に着くと、香は人に押される様にしてホームに出た。

(っとと、危ない。)
香は制服のしわを伸ばしながら人の波からそれた。

パンパン。

スカートをはらうと、カバンをしっかり右肩にかけて顔を上げた。
一直線に視線を感じた。

20M先にあの長身の男子が立っていた。

二人は約2秒・・・、いや3秒位は見合っただろうか。
香から視線をそらすと、階段に向かって歩きはじめた。
男子も香に近づくかのように、一歩一歩歩きはじめた。

香の方が先についたので、階段を降りる時、男子の背中を見ずに済んだ。

(良かった。)
香は、別に今日は何もしていないのに、心臓がドクンドクンと脈打った。
階段を下りて右に曲がり、改札まで来たとき、男子の気配を背中に感じた。

香は振り向かず、そのままPASMOをかざして外に出た。
スクールバスが丁度到着した所だった。

香が小走りにバスに向かおうとした時、忘れかけていたその男子の声が背後から聞こえた。

「この前はゴメン。」
男子の声がはっきりしていたので、香は慌てて振り返った。
男子は香の瞳をちゃんと見て、もう一度ゴメンと謝った。

「・・・・・・・。」
(いや、こちらこそ。こめんなさい。)
香は言った。

男子は香から何か言われるのを待っている様だった。
香は大きく顔を横に振って、手をパーにして、男子に向かって2度プッシュした。
そして、白い歯をみせてニコッと笑った。

太陽の光が香の背中から差し込んでいたので、光のベールが体全体を包んでいる様に見えた。
ケンジは別にクリスチャンではないけれど、その光景を見て、『天使に会った。』と、柄じゃなくそう思った。

駅構内に設置されていた時計に目をやると、バスの発車時刻だった。
香は一度ペコリと頭を下げて、体をクルリと回転させるとバスに乗りこんだ。

ケンジはバスを見送り、ずり落ちていたズボンをそっと上げて高校へ向かった。

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