K・K・K
「そうですね。申し訳ない。」
ワタリはブランデーをゴクゴク飲みながら、喉の渇きを癒した。

しかし、それもわかった上でもう一度マスターに言った。
「でもね、マスター。香ちゃんはもっと広い世界で活躍できる逸材なんですよ。分かるでしょ?」
ワタリも今度は引かなかった。

「このまま彼女を埋もれさせたくはない!広い世界を知って輝いたら、彼女は声を取り戻すかもしれません!!」
ワタリの根拠のない言葉は、妙に説得力があって、マスターも一瞬考えを改めさせられるところだった。

二人は意志と意志をぶつけ合いながら、互いに笑みを浮かべていた。


香が演奏を終えて帰ろうとした時、ワタリは既に店を後にしていた。

「おつかれさま。」
マスターは忙しくドリンクを作っていた。

(おつかれさまでした。)
香はマスターに挨拶をして店を出た。

外はもう暗くなっていて、澄んだ空にはまんまるいお月さまが浮かんでいた。

(今日も良く働いた~!)
と、香が伸びをした時、公園で誰かが動くのが見えた。

香は慎重に目を凝らしてその方向を見た。

(背・・の、たか・い、おとこ・・・・の、ひ・・と??、ふたり~いる?、、、あ”っっっ!!・・・・・あの人だ!!!!!)
香はびっくりした。

そこにいたのは、あの長身の男子だった。


香は店の前で、怪しげにその二人の男子の方を伺っていた。

すると、その男子もこちらに気づいて、何かを話しているようだった。

香は、一瞬目をそらしたが、もう一度顔を上げて、その男子に礼をした。
その男子もそれに応えて礼をした。
互いに礼をし終わると、香は公園脇の道を下り坂の方に歩いて行った。


下り坂のちょうど中腹くらいになった時、やっと男子は香に追いついた。
その腕にはあの大きな袋があった。急いで入れたのか、外からでも中がグチャグチャなのが分かった。

(何だろう?まだ何か言いたいのかな?)
と香は思ったが、男子が明らかに自分を追いかけてきた、という事に気が付くと、胸の辺りに不思議な感覚を覚えた。



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