K・K・K
バーからは、店の扉が開閉する度に綺麗なピアノの音色が聞こえてきた。

(もう少し大人だったら、どうどうと店に入れるのに。)
ケンジは少し悔しがった。

どう見たって、飲み屋だ。
高校生のケンジが入れるはずもない。

もう時刻はPM9:30になろうとしていた。
スティールドラムをやっていると、時間がたつのを忘れてしまう。
気がつくと、ケンジとシンはたっぷり2時間半は練習していた。

(今日はあの娘、来てないのかな。)
ケンジが諦めかけていた時、シンが口を開いた。


「なぁケンジ!いつも公園の外から見てる娘、あの娘はあのバーでバイトでもしてるんかね?」
シンが言った。

「そうだと思う。」
ケンジは答えた。

「・・・・、飲み屋かぁ、しかも渋い所でバイトしてるよね。」
シンは考えながら言った。

「そうだね。」
ケンジは素っ気なく答えた。

「もう夜だね、帰る?」
シンが言った。

ケンジはチラリとバーの入り口を見た後、
「帰るか。」
と、言った。

二人が帰り支度をしていると、ケンジもシンもほぼ同時に視線を感じて振り返った。

(あの娘だ。)

「あ、、、、ケンジあの娘。」
         「あぁ、あの娘だ。」
ケンジはシンの言葉を遮って言った。

その女子はこちらを伺っているようだった。

少し体を斜めにして二人を見ている。
それからゆっくり礼をした。

ケンジもなんかしなきゃいけないと思い、次いで礼をした。

胸が高鳴る。

顔をあげると、女子は下り坂の方に歩いて行った。

ケンジは急いでスティールドラムを袋に入れてその女子の後を追おうとした。
急がば回れで、無駄な動きが多くなり、なかなかドラムは袋に入ってはくれなかった。
モタモタしていると、シンが横から手を出して、入れるのを手伝ってくれた。
ここまでの行動をケンジは、無意識のうちに行った。

「サンキュ。」
ケンジはシンにそう言って、駆け足で公園を出て行った。
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