K・K・K
次の日の朝目を覚ますと、めずらしく母親が台所に立っていた。

「おはよう・・・。」

母は、リビングのソファーに腰掛けて朝のニュース番組を見ていた。

モジャモジャの髪をかきあげながら、香は蛇口からコップ1杯の水を飲んだ。
(今日は、いるんだ。)


「香、来週の月曜日はわかってるよね!」
母は、相変わらずTVから視線を外さずにいた。

香は、ゆっくりと母の向かい側に座って、母をみてうなずいた。


「良かった。その日はお父さんも来るから・・・。」


香はまたゆっくりとうなずいた。



香の父親は、1年前に家を出た。

それは、香の高校の入学式の日の次の日だった。



この家にいるのがたえられなかったんだと思う。



一人息子を亡くしてしまったんだから・・・、仕方ない。

香はそう思っていた。



母は、フリーのジャーナリストとして働いていた。
昼も夜もなく、全国に飛び回っていた。

だから、家にいても顔を合わせることはまれだった。


自然と料理も上達したし、掃除や洗濯も自分でできるようになった。


(どうせ顔を合わせても、会話なんてできないし、それを悲しそうな眼で見られるのもイヤだ。)

と香は思っていたので、ちょうど良かったのかもしれない。




香は早めに朝食をすませると、カバンからi-Potのイヤホンを取り出して、
両耳を塞いだ。そして、そのままカバンを右肩にかけると、何も言わずに家を後にした。


< 8 / 33 >

この作品をシェア

pagetop