明日、あなたが目覚めたら
「でもね、全てを忘れてるわけじゃないの。
自分のことは覚えているし、私たち家族のことも覚えている。
今まで身につけてきた勉強のことだって、友達のことだって……」
だけど。
と、苦しそうに智のお母さんが呟く。
耳を塞ぎたかった。
泣き叫んでしまいたかった。
やっぱり、聞きたくないと思った。
受け入れたくないと、思った。
だって、わかってる。
嫌でもわかってしまう。
その先にある、言葉が。
「一部のことだけ忘れてしまっているの、というよりも消してしまっているの」
その先にある、悲しすぎる事実が。
「千沙ちゃんの、ことを」
その言葉を聞いて、「ああ、やっぱり」って思った。
ショックはもちろんあったけれど、でも、なんとなくわかっていたんだ。
なぜ私が智の記憶から消されてしまったのかなんてわからないけれど。
……でも、あんな言葉を、瞳を、突きつけられたんだから。
わかっていた……わかって、いたよ。
だから、涙はもう出なかった。