明日、あなたが目覚めたら
.



「智、ただいま〜」


「あ、母さん。 おかえ、り……え?」



ベッドで寝たきりの智が、私を見るなり大きく目を見開いた。

あからさまに、なんで?って顔。



「智、この人は藤江千沙さん」


「ふじえ、ちさ……さん」


「そう」


「……なんで、急に?
俺が何回聞いても、『もう忘れて』の一点張りだったのに……」



智のお母さんが、私をちらりと見て『ごめんね』とアイコンタクトをくれたけれど、それはなんとなく予想していたから大丈夫だ。

だって智のお母さんはそう答えるしかないもん。 仕方がない。



「あのね、智。 よく聞いて」



真剣な声色。
真っ白な空間に、緊張が走る。


ああ、この場から逃げ出したくなる。

だけど、だめだ。
もう決めたんでしょう、私?




「あなたは、記憶を一部なくしているの」



きっと私は知らないうちに智を傷つけていたんだよね。


だけど私はもう、智を傷つけたくなんてない。

もう、傷つけない。


< 152 / 166 >

この作品をシェア

pagetop