明日、あなたが目覚めたら



「……ああ、うん。 おめでとう」



笑顔なんか期待していたわけじゃない。

智が今、そんなものを返せるような心境じゃないのは、よくわかっている。


だけど、目さえ合わせられなかったことに、少しだけ心が痛んだ。



「……は、早いね、卒業なんて」


「ああ」


「思い出、いっぱいできたよね」


「……そうだな」


「あのね、智、私ね……」


「千沙」



呼ばれた名前に心臓が跳ねる。



「な、に……」



呼ばれて目を合わせれば、言葉を失うほど冷たい瞳がそこにはあって息を呑む。



「今ひとりになりたいから、ほっといて。
正直、今、千沙と話したくない」

「……え」

「っ、あ」



鋭く低く吐き捨てられた言葉に、私の思考は真っ白になる。

……智の口からこんな声を聞いたのは初めてのことだった。


目の前には、しまった、というような表情の智。


その表情から悟る。



……なんだ。

智、今までずっと、我慢してたんだね。



溜まって溜まって……
そして今、やっと吐き出せたんでしょう?


< 72 / 166 >

この作品をシェア

pagetop