ライラックをあなたに…


無意識にマフラーに手を伸ばす。

肩を竦めるようにして、僅かに香る彼の匂いを探し求め……。


書店に向う筈の足は、真っ直ぐに駅へと向かっていた。




14時を少し回った頃。

私は見慣れぬ景色の中、手にしている携帯ナビでとある場所へと向かっていた。



駅から歩いて10分。

大きな門が目の前に現れた。


――――ここ?


立派な門の先には、私の知らない世界がある。



私は暫し門前で立ち尽くしていた。

部外者の私が軽々しく足を踏み入れていい場所では無い。

辺りを見回した所で、顔見知りな人がいる筈もなく……。


ただ、じっと門の先の建物を見上げていた。


すると、


「ここに、何かご用ですか?」

「へっ?」


突然、背後から優しそうな男性の声がした。

声のする方に振り返ると、父親と同世代に見える男性が立っていた。


「どなたかにご用がお有りで、いらっしゃったのでは?」

「えっと……その………」


門前で立ち尽くしている私は、完全に不審者に思われたに違いない。

………どうしよう。

知ってる人なんて、一颯くんと………。


「あっ、あの!」

「はい」

「………小池教授をご存知ですか?」

「えっ?」


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