ライラックをあなたに…
「初めまして。私が当学院農学研究科で教鞭を執っております、小池と申します」
「………えぇっ?!」
右手を差し出す男性が小池教授?!
思わず、右手と顔を何度も見返してしまった。
そんな私に優しく微笑む小池教授。
右手を差し出したまま私をじっと見つめている。
私は緊張しながら彼の手に手を伸ばした。
教授の手はとても温かい。
「名前を伺ってもいいかな?」
「あっ、はい!……国末寿々と申します」
握手と共に再度深々と頭を下げた。
すると、
「ここで立ち話もなんですから、私の研究室に来ませんか?」
「へ?」
「この手が温まる、美味しい紅茶でもお淹れしますよ」
「ッ?!…………宜しいのでしょうか?」
「えぇ、構いませんよ」
手袋もしていない私の手は、キンキンに冷え切っていた。
握手した際にその冷たさが伝わってしまったようだ。
しかも、お気遣い頂き、お茶に誘ってくれた。
でも、これはチャンスかもしれない。
私の知らない一颯くんを知る事が出来るかもしれないし、彼が通い詰めていた研究室にお邪魔する事が出来る。
私は教授のお言葉に甘えさせて貰う事にした。