ライラックをあなたに…
視線の先には、カップの中に浮かぶ小さな花。
薄紫色したその小さな花は、一颯くんがいつも淹れてくれるハーブティーにも浮かんでいた。
「国末さんは、このハーブティーをご存知なのですね」
「あっ、いえ、知っているという程のものではありません。いつも一颯くんが淹れてくれるハーブティーにも同じ花が浮かんでいたので……」
「………そうですか」
爽やかなハーブの香りとほんの少し甘い香りが入り混じる独特の香りは、一颯くんが淹れてくれるものと同じ香りがする。
あまりにも懐かしくて、思わず鼻の奥がツンとし、視界が歪み始めた。
すぐ横にいる教授にそれを覚られまいと、カップを少し顔に近づけ、湯気でそっと涙目を隠した。
すると、
「元々、このハーブティーは私の妻が淹れてくれていたもので、私が本間君に教えたんですよ」
「へ?」
教授は優しい笑みを浮かべながら、私を近くの椅子に座るように促した。
椅子に腰かけた私は、カップの中に浮かぶ花弁を眺めていると……。
「その小さな花は『ライラック』という名で、甘い香りがとても優雅なので香水の原料などに使用されています。その香気成分の1つにベンズアルデヒドという成分があり、抗炎症作用も認められている優れた花なんですよ」
「………そうなんですかぁ」
世界的にも有名な学者の言葉は、すんなりと心に響く。
優しい声音と教授の柔らかい物腰、そして、全てを包み込んでくれるような温かい瞳に。
一颯くんが慕い敬う気持ちが分かるような気がした。