ライラックをあなたに…


教授が淹れてくれたハーブティー。

つい彼を思い浮かべ懐かしんでいる間に、冷めてしまったようだ。


飲み頃とばかりにゴクゴクと飲み干すと、教授は私の手元を見て切なそうな表情を浮かべた。

私は思わず視線を落とす。

けれど、別にどこも可笑しな所はない。


強いて言うなら、カップの中に花弁が残っているくらい。


あっ!

もしかして、この花弁も飲み干さなければならなかったのかしら?


一颯くんが淹れてくれていた時も完全に飲み干した時は無い。

だって、カップにへばりついて飲むに飲めない状況だったから。

さすがに指を使ってまで飲もうとも思わなかったし……。


でも、教授の切ない表情の原因はこのカップの中にあると思う。


透明なティーカップな為、中が丸見えなのだ。


どうしていいのか分からず、カップをギュッと握りしめていると……。



「国末さんは、ライラックの花言葉をご存知ですか?」

「………いえ」


俯き加減のまま首を横に振ると、教授は優しい口調で話し始めた。


「紫色のライラックの花言葉は『恋の芽生え』」

「へ?」

「私の妻はね、花屋の娘なんですよ」


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