鈴の栞
化学の問題を解いたり、休憩がてら本を読んだり。そうして過ごしている内に、時刻はもうすぐ午後六時を回ろうとしていた。
窓の外はもう真っ暗だ。ここ最近は、日が落ちるのがとても早い。
鞄に荷物を詰め込んで帰り支度を済ませ、ふと斜め向かいの席を見る。手嶋先輩は顔をテーブルにくっつけたまま、まだ起きる気配がない。
よくもまあ、この体勢で熟睡できるものだ。
「手嶋先輩、」
呼びかけながらとんとんと肩を叩くと、応えるように背中が揺れた。むくりと持ち上げられた彼の頭に、もう一度声をかける。
「先輩、起きてください」
「ん、……いまなんじ?」
「もうすぐ六時。そろそろ閉館ですよ」
校則で定められている図書館の閉館時間は午後五時。しかし司書の木村先生の厚意で、実質閉館時間は六時になっている。私みたいな、図書室勉強派の生徒が少しでも長くここに居られるように。
だからこそ、六時退室は厳守しなければならない。私たちのために進んで残業をしてくれている木村先生のためだ。
「六時か……はえーな」
「ずっと寝てましたね、気持ち良さそうに」
皮肉のつもりでそう言ってやると、手嶋先輩はそうだな、と力無く笑った。