鈴の栞
自嘲のように見えるそれに、私は思わず息を呑む。……あれ。なんか、違う。
「? どしたのネコちゃん。帰ろーぜ」
いつの間にか立ち上がっていた先輩は、椅子に座ったまま固まっている私の腕を引いた。その顔にはもう、先程の自嘲の色はない。
「先輩、」
「なに?」
「……何でもないです」
さっきは急にどうしたんですか、とは聞けなかった。
図書館の外に出ると、冷たい風が横から吹き付けてきた。小さく身震いしながら吐いた息は、うっすらと白い。
途端、後を追うように玄関から出てきた先輩に「さっむ!」と背後から抱き着かれた。
「わっ…ちょっと何ですか!」
「俺、寒いの超苦手ー」
「知りませんよそんなの!離れてください」
「……冷たいなあネコちゃん」
くっついた方が温かいじゃん、と先輩は口を尖らせる。構わず、私はその腕の中から逃れ出た。……心臓が、うるさい。
この男と一緒にいるとなんだか調子が狂う。声を荒げたり……だとか、今まではこんなに感情を表に出したことなんてなかった。それに、さっきの無気力な自嘲……。
そこまで考えて、私は首を大きく横に振った。思考を一気に頭から追い出す。
……おかしい。私、変だ。