鈴の栞
 


「飯山さん、この後は暇?」
「え、……はい。家に帰るだけですけど」
「そう。じゃあさ、僕と少しデートしようよ」

「……え?」

 耳を疑った。木村先生は今、何と言った?
 呆然とする私の目の前で、やっぱり彼は笑っていて。その心の中で一体何を考えているのか、私にはさっぱりわからない。

「何か食べに行こう?僕のおごりでさ」
「え……いや……でも、」
「勉強疲れしてるみたいだから。面白いもの、見せてあげる」

 有無を言わせぬ先生の雰囲気に押され、思わず私は頷いてしまった。……え、これ、大丈夫なの世間一般的に。
 そんなふうに考えてみても、時すでに遅し。半ば先生に強引に引っ張られるように、私は図書館を後にした。



「三駅先に蕎麦屋さんがあるんだけど、そこが結構美味しいんだよね」

 校門を出て、駅まで歩き。ホームで電車を待ちながら、木村先生はほのぼのと笑う。……何なのだろう、先生が醸し出すこの落ち着いた空気感は。まだ二十代中頃の若人とは思えない。

「あ、電車来た。飯山さん、乗るよ」
「はい……」

 このよくわからないまま他の人のペースに流されてしまうような感覚、誰かさんの時と似てるなあ……。


 
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